[悩みは自慢■名取弘文]



私の顔のこと

 いきなり私のことから始めます。実は私の顔は丸顔で笑っているように見えるのです。なくなられた干刈あがたさんは私のことを「丸顔怪人」とエッセイの中で書いていました。今は映画監督としても有名な本橋成一さんに単行本の装丁用の顔写真を撮ってもらったときには、「まじめな顔と笑っている顔を対で使う」といわれたのですが「まじめな顔ができないのですか」と怒られてしまいました。むずかしいことを真剣になって議論している場で「なにを笑っているのだ」とののしられたことは何回かあります。

たてじわの教育と子ども
 昨今の学校教育と子どものことを語るとどうしても憂うつな顔になってしまいます。
 教育基本法そのものが改悪されそうだ。義務教育の教員の給与の半分を国が補助する制度が廃止されそうだ。日の丸・君が代に関わって処分された教員が続出している。子どもにも斉唱が強制されそうだ。少年法改悪後、少年事件に厳罰が課せられるようになり、保護更正が軽んじられている。自己破滅型の少年事件が続いている。児童虐待が続発している。学校選択制が取り入れられ、学校間隔差が広がっている・・・。
 といった具合なので、私は顔のせいもあってこれらの集会にはあまり参加しないようにしているのです。

でも、教室には笑い声が
 それに私が勤めている学校には笑い声があふれているのです。コーヒーに砂糖と防湿剤を間違って入れて飲みそうになった教員もいれば、眼鏡やその日使う教材を忘れたからと自宅に取りに戻る教員もいます。再任用の面接の練習を同僚としている教員もいます。
 理科準備室にある人体骨格標本が毎日動くといって朝から騒いでいる子どももいます。「三輪車4台の車輪の数は」というテストの答えは12輪か12こか12本かと悩んでいる2年生がいます。家庭科の授業で作ったエプロンをお母さんにあげた6年生もいます。
 そんな子どもたちもいろいろ悩みを持っています。リレーの選手になりたくて悩む子もいれば、選ばれて悩んでいる子もいます。

『悩みのタネ!』からは
子どものものの見方、考え方、価値観が伺えます

 また、ダイナミックな授業をする教師もいます。チョコレート・サンデーを教室で生徒に配ってピューリタンのことを教える教師。もの作りをスタンツにしている教師。大道芸やバンドをやっている教師。グッズがたくさん入っているフィリピン・ボックスを持ち込んでフィリピンの授業をする人。この人たちと私のインタビュー集『さらば学校、再見学校』(仮題、来春刊行予定)も期待して下さい。We are not alone、1人で悩んでいる子ども、教師への愛のメッセージです。そして、この時代の証しとなっていると私は自負しているのです。

悩みのタネ!親子のなんでも相談

名取弘文/著
雲母書房(2004年)
四六判並製 253頁 本体1600円+税

もくじ
第1章 学校には悩みのタネが
第2章 友だちー自分のかがみ
第3章 自分をみつける
第4章 家族だから気になる
第5章 あれがしたい、これして欲しい
第6章 将来のこと
第7章 親も悩みます

■子どもたちの学校での困りごと、友だちのこと、家族の悩みなどをあれこれ一緒に悩み、考えます。悩みって、誰かに話すと気がラクになるもの。自慢話になることだってある。悩むということは、他人への思いやりの気持ちの表れでもあります。まずその“成長”を、自分で(お母さんはお子さんを)ほめてあげましょう。
★小学校中学年〜中学生向き。親子で読めます。

こどものけんり

名取弘文/編著 雲母書房(1996年)
A5判上製 125頁 本体1600円+税

1989年に国連が採択した「子どもの権利条約」を、小学校6年生の児童がわかるような対訳つき、コメントつきのこども語訳版。ロングセラー。

教師という快楽

名取弘文/著 雲母書房(1997年)
四六判上製 384頁 本体2800円+税

数多くの注目すべき「公開授業」を展開してきた著者が、その授業風景をまとめた10年間の記録。閉塞した学校を、笑いの力でこじあける。

雲母書房より
教師生活35年、「子どものじゃまにならない軽い教師」を信条としてきたナトセンの本が揃いました。ナトセンの家庭科の授業は、戦争について話しあったり、畑に質問に出かけたり、竹を割るところから工夫して流しそうめん大会をしてみたり。学ぶとはどういうことなのか、教科書、学校、制度から解放されて、学ぶことのほんとうの意味を問う本ばかりです。年明けに刊行予定の『さらば学校、再見学校』(仮)も併せてどうぞよろしくお願い申し上げます。

■雲母書房サイト



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