豊かな海をだめにしたのは何者か 「海の博物館」館長 石原 義剛
この聞き書き集をまとめるにあたっては、大戦後の伊勢湾漁業地区(三重県・木曽岬〜安乗の間)56地区を対象に聞き取りを行った。
第二次大戦後(昭和20〜30年)頃の伊勢湾沿岸漁業の様子を知るため、できるかぎり当時すでに15歳以上であった昭和5年生まれで平成16年現在、74〜75歳くらいの漁師さんを想定していたが、結果は少し若い年代が多くなった。それでも昭和30年代の中頃にはじまる漁業の変革の時期をすべての人が経験していた。
このように大きな範囲の漁業区域で直接漁撈に携わった多数の漁業者から聞き取りし、生の声を集めた文集ははじめてのことと思われる。この記録は大戦後から60年、大きな変革期を経て、今に至っている伊勢湾漁業の現場の姿を余すところなく後世へ伝える貴重な資料となることであろう。
それにも増して、この聞き書き集は、衰兆著しい伊勢湾漁業のこれからに、強い助言となるであろうし、悪化の一途を辿る伊勢湾の環境の回復を図るに当たって、なにが問題なのかを明白に示唆してくれるであろう。
この聞き書き集には、伊勢湾のどこの海にも、沖にはあふれるほど魚介類がいて、岸辺では沸くように魚介類の稚仔が育っていた、そんな様子が生き生きと語られている。そして、漁師さんたちは海底地形、底質、潮流の異なる様々な漁場を有して、その漁場に応じた多種多様な漁法で漁業を営んで来たことを伝えている。さらに、陸部から押し迫ってきた様々な環境変化の度々の波に対して、その都度、漁法を変え漁具を変更しながら柔軟に対処して、切り抜けて来たことが伝えられている。まさに“どっこい、漁師は生きてきた”のである。
その豊かな伊勢湾漁業をだめにしたのは何者か? 多くの漁師さんたちは己の漁法が魚介類を取り尽くした反省を語っている。やっと漁業者も取り尽くす漁業の空しさを言葉にするようになった。しかし、そこへ追いやった者がいる。追いやった制度がある。さらに、公害といわれる人間が作った環境破壊がある。それらは漁師さんたちの抵抗の域を越えて押し寄せてきた。
原則として、聞き取りの言葉をそのまま採録した。ただ、複数の聞き取りや一人の場合でも話が前後することが多く、ただ単純に言葉を並べるだけでは意味が取れぬところがあって、そんな場合は聞き取り者が配列を整理した。地域のなまりは極力残すよう努めたが、文字にすると分かりにくくなる場合、標準語的にしたものもある。
『伊勢湾は豊かな漁場だった
―伊勢湾漁師聞き書き集』
海の博物館/編
A5判並製・286頁
定価(本体2,200円+税)風媒社
NR 地球環境を考える本 ++++++++++++++++++++
『伊勢湾 ―海の祭りと港の歴史を歩く』
海の博物館・石原義剛/編(1,505円+税)風媒社
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『地球を殺すな! ―環境破壊大国・日本』
伊藤孝司(2,400円+税)風媒社
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『四日市学 ―未来をひらく環境学へ』
朴恵淑・上野達彦ほか(2,000円+税)風媒社
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『環境革命の世紀へ』
荒岱介(1,800円+税)社会評論社
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『森に学ぶ』
徳村彰(1,700円+税)雲母書房
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『森に生きる』
徳村彰、杜紀子(1,600円+税)雲母書房
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『四万十 川漁師ものがたり』
山崎武(1,500円+税)同時代社
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『恵みの洪水』
ミハイル・ゴルディング(3,800円+税)同時代社
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『環境学と平和学』
戸田清(2,800円+税)新泉社
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『増補版 ゼロ成長の社会システム 開発経済からの離陸』
須藤正親(2,800円+税)新泉社
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