インパクト出版会■年報・死刑廃止2006 光市裁判                               

2006.10.25.up


光市母子殺害事件。
作られた「事件」を安田好弘弁護士と読み直す。

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年報・死刑廃止2006
光市裁判 
なぜテレビは死刑を求めるのか
年報・死刑廃止編集委員会/編
ISBN 4-7554-0169-0 本体価格2,200円+税

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 「性欲を満たしたい一心で、若妻を物色しながら山口県光市内の集合団地を回り、 排水検査員を装って室内に上がり込み、隙をみて背後から襲いかかり強姦しようとしたところ抵抗されたため、殺害して屍姦しようと考え、馬乗りになって被害者ののど仏を押さえつけたがより激しく抵抗されたため両手で全体重をかけて首を絞め続け扼殺し、生後11か月の被害児の目の前で陵辱した。次いで、泣き叫ぶ同児の殺害をも決意し、持ち上げて頭から床に叩き付け、なおも泣きながら母親の遺体に這い寄ろうとする同児の頚部に紐を巻き付けてひもの両端を力一杯引っ張って絞殺し、被害者方にあった財布を盗んで逃走した。強姦の犯意及び殺意の強固さ並びに殺害の手段方法の執拗性、残虐性からして、これら所業は言語道断であって冷酷非道、人倫にもとる比類なく悪質重大な犯行である。」

 検察官の主張は大意以上のようなものだ。一、二審判決ともそれに一致しており、 無期懲役判決が出されたのだった。これまでの量刑基準から考えると、被告は事件当時18歳の少年で、初犯であり、計画的犯行でもなく、死者は2名、通常無期懲役のケースである。それに対して最高裁は死刑を求めて高裁へ差し戻した。つまり審理をやり直して死刑判決を出せ、というのだ。

 しかしこの事件は本当にマスメディアが報じ、裁判所が認定したような事実関係の事件だったのか。

 上告審でこの事件を受任した安田好弘弁護士らは遺体の鑑定書を読み、事実が全く違うことを明らかにする。事件は計画的なものではなく、騒がれたためパニック状態になった少年が口をふさごうとして右手で首を絞めた、幼児の殺害も遺体の状況と矛盾する。上野正彦医師の鑑定書も安田弁護士の主張を裏付ける。結果は無惨であり、最愛の人を失った被害者遺族にとっては絶えがたい悲惨な事件である。死者が2人出たことも否定しようのない事実だ。しかし幼い少年の性的妄想が殺人へまで傾斜していった経過は加害者にとってもつらい現実だ。メディアをあげて凶悪キャンペーンが張られ、加害者は「極悪人」というレッテルが貼られた。年報・死刑廃止2006『光市裁判』では、裁判所とマスコミによって作り出されたこの事件の真実を明らかにする。

 なぜ最高裁は死刑を求めたのか。

 一つには被害者遺族がテレビで極刑を求め続けたことだ。最近の重罰化傾向は被害者遺族の報復感情をマスメディアが増幅するという時代背景のもとに進行している。冷静であるべき裁判所はマスコミの作った世論におもねるまでに頽廃している。

 二つ目には少年事件の頻発に対して見せしめとして死刑を求めたことだ。しかしマスメディアがことさら少年事件を報道するが、少年事件はいつの時代にもある。死刑制度に犯罪の抑止力はない。

 三つ目には裁判員制度導入を前に、死刑適用基準の引き下げを、地裁・高裁の裁判官に印象づけるためだ。そのため、この事件が使われ、凶悪事件キャンペーンが張られたのである。

 10月1日現在、確定死刑囚は93人いる。5年前の01年には54人、昨年10月には75人だったのが急激に増加している。おそらく確定死刑囚を早期執行せよというおぞましい運動が始まることだろう。人の命を軽んずる風潮を払拭するためにも、死刑制度を考える著作をぜひ店頭に並べて欲しいと思う。

 今秋、光市母子殺害事件の広島高裁差し戻し審が始まる。(深田 卓)
      


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