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新幹社
10月下旬刊行予定
日本から「北」に帰った人の物語
韓錫圭(ハン・ソクキュ)
四六判上製・本文13級・325頁
ISBN978-4-88400-071-4 C0097
定価2,000円+税
帰国者たちの墓標
黒田福美
朝鮮民族の独特な情緒として「恨(ハン)」というものがある。たとえば私たちが日本の「侘び・寂び」という美意識を外国人に説明しようにも、どうにも伝えようがないように、朝鮮の「恨」という感性もまた、ぴたりと当てはまる日本語や表現が見あたらない。
では「恨」とはどういった感情だろう。私の友人がこんなふうに説明してくれた。
「どうすることもできない大きな悲しみや苦しみが心の中に降り積もって、たくさん、たくさん降り積もって。でもどうすることもできなくて、それが心の中でギュッと固い石のように固まってしまったような気持ち」
私がこの本を読んで感じたのはまさに、著者の「恨」の心であった。
「恨」は「ひどい仕打ちをした相手を憎しむ」という意味の「恨む」という日本語と同じ漢字を用いているため、さまざまな誤解を受けてきた。たとえば「植民地支配をした日本国を恨む朝鮮民族」とか、「封建的な家族制度のなか、虐げられた嫁の思い」などといった図式のなかで「恨」は持ち出された。
たしかにそれも「恨」ではあろうが、むしろ国家や個人などに向かって強い憎悪の感情を抱くというよりは、そんな気力さえ失せるほどに打ちのめされ、為す術もなく呆然と立ちすくむしかない、「諦め」や「やるせなさ」にまで昇華してしまった「悲しみの化石」といったほうが近い気がする。
この物語の主人公たちは青年期までを日本で過ごすが、差別にまみれた日本を脱し、理想を胸に共和国(朝鮮民主主義人民共和国)を目指す。しかし夢にまで見た当の祖国からも手ひどい裏切りにあい、憤怒を通り越してある者は正気を失い、またある者は虫けらのようにあっけない死を遂げる。
彼らの胸の内にはぎっしりと「恨」という固く冷たい石が詰まっていたのに違いない。
彼らの非業の行く末を間近に見た著者は、なんとしてでも生きて日本にたどり着き、この物語を著すことによって声ひとつあげることも出来ずに死んでいった人々の思いを代弁し、「恨プリ」=無念の思いを晴らすこと=をするのだと心に誓ったのではあるまいか。
この物語を読んで衝撃を受けたのは、在日朝鮮人であっても日本に生まれ育った彼等が異郷の地ともいえる「北」へ行くのに、思いのほか不安や恐れを抱いていなかったということだ。
いったいどれほど日本が生きがたければこのような決断ができたのだろう。「在日」の問題は日本社会の問題だと常々思ってきたが、まさに彼等の背中を「北」へ向かって押しやった責任の一端は私たちにもあったと言わざるを得ない。
著者が必死の思いで日本にたどり着いたとき、日本は「韓流ブーム」にわいていた。それを目の当たりにした著者の胸には果たしてどんな思いが去来しただろう。
それぞれの国を、文化を、民族を尊重するという当たり前のことが、当時少しでも実現されていたなら、彼等はあの帰国船に乗らずにすんだのではないか。そう思うと胸が痛む。
(くろだ・ふくみ 女優)
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