2007.12.26..up

社会評論社の新刊、好評発売中！　　　　　　　　　　　　　　

アーサー・シイク
義憤のユダヤ絵師
袖井林二郎
Ａ５版上製・本文13級・224頁＋カラー32頁
定価2,500円＋税　ISBN978-4-7845-0569-2

　アーサー・シイク。日本ではもちろん、彼がその後半生を送ったアメリカにおいても、今は知る人の少なくなった、ポーランド出身のユダヤ人画家です。1894年に生まれ、16歳でパリに出た早熟な少年は、この地で聖書の挿し絵にルーツをもつ細密画（ミニアチュア）に出会い、その技法をわが物として、細密画の分野の第一人者として国際的に活躍しました。やがて、第二次大戦が始まり、生まれ故郷がドイツに占領されることで、帰る国を失ったシイクはアメリカに渡ります。そして彼は、ヒトラーやムッソリーニ、そして日本の軍人や昭和天皇のカリカチュアを雑誌メディアに大量に描き続ける道を選びます。

　「タイム」「コリアーズ」や「ニューヨーク・ポスト」「シカゴ・サン・タイムズ」「ＰＭ」などの雑誌や新聞に発表された、強烈な毒を含んだ作品群。それはヒトラーをして、ベルリン放送を通じてシイクの首に懸賞金をかけるという放送をさせ、また、ポーランドに残っていたシイクの母親は、強制収容所で焼き殺されてしまったといいます。

　「シイクのカートゥーンは武器に等しい」と「ニューヨーク・タイムス」で評価される一方、その作品は芸術ではなく「政治的ポルノ」だと決めつけた批評もありました。しかしシイクは言います。「この事態に直面して、芸術家がどうして中立の立場を保てるというのか。……差し迫る危険は巨大なものだ。だから画家も誰一人として非戦闘員ではおれないのだ」「私はプロパガンダのためにやって来たのだ。それ以外の目的は持っていない」。

　ナチスの宣伝のもつ恐ろしい力を知り、それをいっそう効果的な宣伝によって打ち砕こうとしたシイク。その作品は確かな技術に支えられて、巨大な破壊力を持った筆の銃弾となりました。もしシイクが、ファシストに対する批判をリアリズムの画法で行なったとしたら─それはシイクには充分可能でした─見るものには耐えられなかったかもしれません。しかしデフォルメして笑いの対象とすることによって、効果的なプロパガンダとなったのです。

　20世紀、戦争の時代における「政治と芸術」、また、シイクの表現の中にも当然存在する「人種偏見」、そして彼の「義憤」の根拠ともなった「ユダヤ人問題」。さまざまな問題が、シイクの足跡と180点以上にものぼる作品の図版（うち、44点がカラー図版）によって、浮かび上がってくるに違いありません。

　ところで小社は、永年にわたってＮＲ加盟社としてお世話になって参りましたが、今年度で退会することになりました。今後とも宜しくお願い致します。 （社会評論社・新孝一）

【一面特集関連本】戦争と芸術・大衆文化

改装版　ナチス・ドイツ　ある近代の社会史
ナチ支配下の「ふつうの人びと」の日常
デートレフ・ポイカート
4,800円＋税
ISBN978-4-88303-164-0
三元社

ナチス・ドイツの強制労働と戦後処理
国際関係における真相の解明と「記憶・責任・未来」基金
田村光彰
3,400円＋税
ISBN978-4-7845-1322-2
社会評論社

歴史の影　恥辱と贖罪の場所で
アーナ・パリス／著、篠原ちえみ／訳
5,600円＋税
ISBN978-4-7845-0556-2
社会評論社

池田浩士虚構論集　権力を笑う表現？
池田浩士
2,800円＋税
ISBN978-4-7845-0475-6
社会評論社

池田浩士コレクション３　ファシズムと文学
池田浩士
4,600円＋税
ISBN978-4-7554-0165-8
インパクト出版会

池田浩士コレクション５　闇の文化史
池田浩士
4,200円＋税
ISBN978-4-7554-0139-9
インパクト出版会

ぼくは皇国少年だった　古本から歴史の偽造を読む
櫻本富雄
1,900円＋税
ISBN978-4-7554-0093-7
インパクト出版会

図説　着物柄にみる戦争
乾 淑子／編著
2,200円＋税
ISBN978-4-7554-0178-7
インパクト出版会

絵で読む　大日本帝国の子どもたち
戦場へ誘った教育・遊び・世相文化
久保井規夫
2,800円＋税
ISBN978-4-8068-0553-3
柘植書房新社