サウンドスケープの発想から「銀河鉄道の夜」を読み解く
西崎専一●名古屋音楽大学教授
賢治に関する著作が世に横溢する中、本書をあえて世に出すことを意図した動機のひとつは、「銀河鉄道の夜」や「セロ弾きのゴーシュ」に関する音楽学からの解釈や「賢治の蓄音機への旅」における史資料リサーチから、これらの困難さを克服する可能性の一端を示してみたいということにありました。
もちろん新しいリサーチの方向が求められれば、そこに同時にまた新たな問題点が生まれるという批判を本書もまた甘受しなければなりません。その上で、賢治の文学と音楽活動の双方に対する優れた見識と研究方法を身につけた若い研究者をこの分野に招き入れる呼び水になることも本書に込めた願いのひとつでした。
それは賢治の童話や詩に親しんでこられた多くの方々に、晩年の代表作を読み解く新しい方向を提案することにもなるはずです。そうした労作が今後積み重ねられることによって、創作の糧として生きる糧として音楽に向かい合った宮澤賢治の世界への理解と共感が深まることは間違いないのですから。
私が音楽学の領域の中でも心を寄せて取り組んできたのが、音楽時間に関わる問題とサウンドスケープでした。簡単に言えば、音楽理論とか史実解明ではなく、音楽と向きあう意識の働きや自分の生きている社会や情況の視点から音楽をとらえようとする試みです。サウンドスケープの発想からは、「銀河鉄道の夜」を読み解く手掛かりを得られたように思います。鉄道の走る銀河空間には乗客の心理や意識を映し出した響きと音楽が満ちあふれていたからです。本書の「ジョバンニの耳」はそうした観点からのこの物語を読み解こうとする試みでした。
結果として、本書は序奏とコーダ(終結部)が四つのパート(楽章)をはさむ、さらに序奏と最初の楽章に全体を導くモチーフが仕込まれているという、まるでロマン派の交響曲のような構成となりました。賢治もまた、この音楽の組み立てを詩作の構成のなかへ導入する試みを行っています。そこに何らかの親和性を感じるというほどに傲慢ではないつもりですが。
賢治が教え子に贈ったとされる蓄音機
銀河鉄道のモデルとなった「岩手軽便鉄道」
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