風媒社1月新刊 好評発売中
ジョバンニの耳
宮沢賢治の音楽世界
西崎専一/著
定価1,600円+税
ISBN978-4-8331-2065-4


 
もくじ
   プロローグ
   かっこう鳥と「星めぐりの歌」
   ジョバンニの耳
   ゴーシュの音楽美学
   賢治の蓄音機への旅
   エピローグ−−ほんとうの幸福を生み出す力としての音楽

2008.03.03.up


















サウンドスケープの発想から「銀河鉄道の夜」を読み解く

西崎専一名古屋音楽大学教授
 


 賢治に関する著作が世に横溢する中、本書をあえて世に出すことを意図した動機のひとつは、「銀河鉄道の夜」や「セロ弾きのゴーシュ」に関する音楽学からの解釈や「賢治の蓄音機への旅」における史資料リサーチから、これらの困難さを克服する可能性の一端を示してみたいということにありました。

 もちろん新しいリサーチの方向が求められれば、そこに同時にまた新たな問題点が生まれるという批判を本書もまた甘受しなければなりません。その上で、賢治の文学と音楽活動の双方に対する優れた見識と研究方法を身につけた若い研究者をこの分野に招き入れる呼び水になることも本書に込めた願いのひとつでした。

 それは賢治の童話や詩に親しんでこられた多くの方々に、晩年の代表作を読み解く新しい方向を提案することにもなるはずです。そうした労作が今後積み重ねられることによって、創作の糧として生きる糧として音楽に向かい合った宮澤賢治の世界への理解と共感が深まることは間違いないのですから。

 私が音楽学の領域の中でも心を寄せて取り組んできたのが、音楽時間に関わる問題とサウンドスケープでした。簡単に言えば、音楽理論とか史実解明ではなく、音楽と向きあう意識の働きや自分の生きている社会や情況の視点から音楽をとらえようとする試みです。サウンドスケープの発想からは、「銀河鉄道の夜」を読み解く手掛かりを得られたように思います。鉄道の走る銀河空間には乗客の心理や意識を映し出した響きと音楽が満ちあふれていたからです。本書の「ジョバンニの耳」はそうした観点からのこの物語を読み解こうとする試みでした。

 結果として、本書は序奏とコーダ(終結部)が四つのパート(楽章)をはさむ、さらに序奏と最初の楽章に全体を導くモチーフが仕込まれているという、まるでロマン派の交響曲のような構成となりました。賢治もまた、この音楽の組み立てを詩作の構成のなかへ導入する試みを行っています。そこに何らかの親和性を感じるというほどに傲慢ではないつもりですが。


 賢治が教え子に贈ったとされる蓄音機


   

銀河鉄道のモデルとなった「岩手軽便鉄道」



NR関連書 音楽―時代の背景放射

オーケストラから時代が聴こえる
西崎専一
1,800円+税 ISBN978-4-8331-3145-5
風媒社


オヤジのためのクラシック音楽入門
バロックから現代音楽まで
帯金充利
1,800円+税 ISBN978-4-7877-0409-5
新泉社


フリーダ・カーロ 歌い聴いた音楽
上野清士
2,000円+税 ISBN978-4-7877-0710-9
新泉社


トリオ・ロス・パンチョスを憶えていますか?
メキシコポピュラー音楽の歴史
仲村 聡
2,500円+税 ISBN978-4-8068-0494-9
柘植書房新社


熱帯の祭りと宴 カリブ海域音楽紀行
石橋 純
2,300円+税 ISBN978-4-8068-0479-6
柘植書房新社


音の力
De Musik Inter. 編
2,200円+税 ISBN978-4-7554-0052-0
インパクト出版会


ラフミュージック宣言 チンドン・パンク・ジャズ
大熊ワタル
2,200円+税 ISBN978-4-7554-0110-7
インパクト出版会


おんなうた ひそやかに手渡していくもの
東 琢磨
1,900円+税 ISBN978-4-7554-0138-1
インパクト出版会


 NR出版会サイトトップ新刊重版情報既刊書籍リスト加盟社リンクNR-memo書評再録

Copyright(c) NR出版会. All rights reserved.