2008.09.01.up 


凱風社▼8月の新刊

属 国 ――米国の抱擁とアジアでの孤立
ガバン・マコーマック/著 新田準/訳
四六判並製336頁 定価2,500円+税

 【推薦の声】
「辺野古の闘いは、知日派外国人の目にどのように映っているか」(新崎盛暉=沖縄大学名誉教授
「日本が抱える諸問題の根源はどこにあるのか。耳を澄まして聴きたい外からの声」(高橋哲哉
=東京大学大学院教授
「これは暗喩ではない。まさしくこの国の現実だ」(森達也
=映画監督・作家
「著者らしい、示唆に富む、骨太な議論」(ノーマ・フィールド
=シカゴ大学教授

 【内容】
 日本語版への序 日本はアメリカの属国なのか / 第1章 ずっと12歳? / 第2章 米国依存の超大国 /
 第3章 日本モデルの解体 / 第4章 ブッシュ世界の日本 / 第5章 アジアの中の日本 /
 第6章 憲法と教育基本法 / 第7章 沖縄処分と抵抗 / 第8章 核大国・日本 / 第9章 精神分裂国家か?


米国一辺倒のナショナリズムという矛盾
    

 米国の世界一極支配構造の中で、小泉・安倍両政権は積極的に米国の戦争に参加し、ネオリベラリズム型市場開放に走った。対米従属一辺倒の「改革」の結果、いまや日本は米国の「属国」だ。戦後日本は平和憲法と日米安保を逆回りの両輪にして、米国の核の傘の下で経済発展を遂げた。この時点の日本は完全な独立国とはいえないものの、少なくとも米国の属国ではなかった。

 バブル崩壊と冷戦終焉を経て日本は今、長い低迷期にある。持てる者と持たざる者の格差もここへきて急拡大している。人口減少もあいまって国力は衰退しつつあり、東アジアでも世界でも日本の存在感は極めて薄い。どうしてこんなことになってしまったのか。著者は言う。
 「教育水準も高く勤勉な国民が、こんな事態になるまで手をこまぬいていたことが不思議でならない……何が問題だったのかこれを私なりに探ろうとしたのが本書である」

 「私は、小泉・安倍両政権の特徴は対米依存と責任回避だと考える。日米関係の核心にあるのは、冷戦期を通して米国が日本を教化した結果としての対米従属構造だが、二人の首相の〈改革〉はこれまで長年継続してきた対米依存の半独立国家・日本の従属をさらに深め、強化した。その結果日本は、質的に〈属国〉といってもいい状態にまで変容した。日本独自の〈価値観・伝統・行動様式〉を追求するどころか、そうした日本的価値を投げ捨てて米国の指示に従い、積極的に米国の戦争とネオリベラリズム型市場開放に奔走した。世界中で米国の覇権とネオリベラリズムの信用が急落している中で、小泉・安倍両政権は献身的にブッシュのグローバル体制を支えたのである」

 「本書のタイトルに使用した〈属国〉という言葉は、70年代から80年代にかけて政権の中枢にあった故・後藤田正晴元官房長官の発言から採った。死の前年の2003年に後藤田は、日本はアメリカの属国になってしまったと述べている。保守政治家の中からも日本は〈アメリカの何番目かの州みたいなものだ〉とか、日本の保守は〈腐っている〉とか〈どんなときもアメリカ支持〉だと自嘲気味の発言が出てきた」

 「小泉・安倍両首相は、保守とは名ばかりでじつは戦後最も急進的な政治家だったということもできる。自民党はもはや保守党ではなくなった。本来の保守政治家は冷や飯を食わされ、引退させられ、刺客に暗殺され、粛清されてしまった。佐伯啓思・京都大学教授は〈自民党にいまや保守の理念は存在しない〉とまで言っている」

 映画「靖国」が話題になったが、靖国などの「伝統」を称揚する人たちにかぎって米国の軍事覇権を安易に受容し、日の丸・君が代を振りかざしてナショナリズムを強調する。そもそも日本が世界でほかに例のない特別な国だという考え方に普遍性はないし、そうした考え方はむしろ日本がアジアや世界で何らかの役割を果たそうとするときにはじゃまものでしかない。

 福田政権がどういう立場に立っているのかはっきりしないが、小泉・安倍両政権の延長線上にあることはまちがいない。また、自民党の誰が首相になっても、また仮に民主党政権ができたとしても、日本の対米関係と軍事力強化の政策が大きく変化することはないだろう。本当にこれでいいのだろうか。

 著者はオーストラリア国立大学名誉教授の東アジアウオッチャー。1930年代の日中関係、特に張作霖についての論文でロンドン大学博士号を取得している。日本留学を経て英豪の大学で日中、日韓、日米関係を中心に講義。『空虚な楽園』(みすず書房)、『北朝鮮をどう考えるのか』(平凡社)など著書多数。本書は中国・韓国でも同タイトルで翻訳刊行される予定。(文責・新田準)



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