2008.12.24.up 


インパクト出版会の新刊好評発売中!



軍事主義とジェンダー 第二次世界大戦期と現在
上野千鶴子・加納実紀代・神田より子・桑原ヒサ子・松崎洋子
/著
A5判並製・206頁・定価1500円+税 10月発行
ISBN978-4-7554-0190-9 



軍事化とジェンダー平等

敬和学園大学特任教授 加納実紀代 

 かつて欧米世界や日本でも戦争は男性の役割であり、女性は男たちに守られ、戦士を生む存在でした。とりわけ近代国民国家は、男たちを国民軍に強制動員することで「男らしさ」を形成し、女性抑圧のジェンダー秩序を構築してきました。軍隊は「男らしさ」の学校であり、男の聖域でした。しかし21世紀の現在、女性たちもまた男性とともに戦争を担っています。アフガニスタン、イラクと空爆を繰り返しているアメリカ空軍の20%は女性兵士であり、海外派遣されている日本の自衛隊にも女性隊員がいます。こうした女性の軍事化は、20世紀の2つの世界戦争を経て徐々に進行していましたが、世紀末になって一気に加速しました。きっかけはアメリカ最大の女性団体NOW(全米女性機構)による女性兵士の戦闘参加要求です。1991年の湾岸戦争出動米軍のうち、3万人は女性兵士でした。しかし彼女たちの任務は通信・輸送といった後方支援活動に限られ、戦闘部署からは排除されていました。NOWはそれを女性差別として、戦闘参加を要求したのです。その基底にあるのは、社会のあらゆる場面における男女の平等参加というアメリカ・フェミニズムの理念です。要求は認められ、男たちの最後の砦は開放されました。アメリカ・フェミニズムの輝かしい勝利!

 しかし日本では、NOWの提起に疑問の声が上がりました。軍隊への平等参加がフェミニズムのゴールなのか?それでは国家による殺戮と破壊への加担を強めるだけではないか? わたしも雑誌等を通じてそう発言しました。しかし考えてみれば、非武装憲法がありながらすでに日本は世界有数の軍隊(自衛隊)を持ち、とくに最近は有事法制や国旗国歌法の制定、教育基本法改定など社会全体の軍事化が急激に進行しています。その一方、社会のあらゆる面で男女の共同参画をめざす男女共同参画社会基本法が成立しました。NOWの提起はいまや現実問題として、日本のフェミニズムに問われているといえるでしょう。

 そうした状況を背景に、4年前、敬和学園大学では8人の教員による「戦争とジェンダー表象研究会」を立ち上げ、「表象に見る第二次世界大戦下の女性の戦争協力とジェンダー平等に関する国際比較」というタイトルで研究を行いました。第二次世界大戦において、参戦国の女性たちは多少の差はあれ戦争に協力しましたが、それによってジェンダー平等は進展したでしょうか? 国際比較によってこれを明らかにすることは、現在における軍事化とジェンダー平等を考える上で意味があると思ったからです。

 その研究成果の一部は、2007年11月10日、東京大学大学院教授上野千鶴子さんをお迎えして新潟市民プラザで開かれた学術シンポジウムで発表されました。そこで明らかになったのは、体制のあり方や経済力のちがいにかかわらず、共通してみられるのは戦争協力要求の一方で「女らしさ」が強調されていることです。戦争という「男の領域」への女性動員が、既成のジェンダー秩序を崩壊させることを恐れてのことでしょう。ここからいえるのは、女性の戦争参加とジェンダー平等は必ずしも直結するものではないということです。

 上野千鶴子さんの提起は、フェミニズムそのもののパラダイム転換を迫るものでした。上野さんはこれまで一貫して、軍隊内男女平等を求めるアメリカ・フェミニズムを批判してきました。しかしそこには落し穴があります。うっかりすれば既成の「男らしさ/女らしさ」や母性神話の罠にはまってしまいます。

 それを避けるために上野さんは、フェミニズムを「強者の平等」ではなく「弱者」が尊厳を持って生き延びるための思想とするパラダイム転換を提起しました。これについてはシンポの記録『軍事主義とジェンダー 第二次世界大戦期と現在』をぜひお読み下さい。



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