2009.03.16.up 



トヨタ足元 ベトナム人研修生・奪われた人権
榑松佐一
四六判並製・182頁・定価 1,300円+税
ISBN978-4-8331-1080-8


雇用不安 最底辺からの叫び

榑松佐一(愛知県労働組合総連合事務局長)

 本書は、愛労連(愛知県労働組合総連合)が取り組む外国人研修生支援の活動を知らせるブログ“ベトナム人研修生支援”をもとにまとめたものです。
 2007年5月、はじめて取り組んだ事件がトヨタの下請け企業23社が関わる大事件だったこともあり、社会的にも注目され、政府も「研修生の不利益にならないよう」にすることを約束しました。この事件は4ヶ月間で全員の企業移動を完了し、9月には解決集会を行いました。しかしその時にはすでに次の研修生の相談がきていました。

人材ビジネスに利用された外国人研修制度
 さらに08年になるとその数は急増し、一年間に60件211人の研修生が相談にきました。この中で、研修生たちのおかれている劣悪な労働条件や人権侵害ともいえる深刻な問題まで見てきました。Gネットやコクヤンなど、研修生の送り出し/受け入れに関わる大きな組織による不正を告発してきましたが、一方で不正を可能にする研修制度の問題点にもぶつかってきました。
また「日本一元気」と言われた愛知でこのような事件がおきた背景、中小下請の実態もわかってきました。外国人研修制度は当初の中小事業者のための「生き残り策」から、大企業に利益をもたらす人材ビジネスへと「発展」していました。
 外国人研修生の問題がたびたびマスコミに取り上げられるなかで、政府は8年ぶりに入管の「指針」を改正(07年12月)し、翌年3月には「09年に法改正を行う」と閣議決定を行いました。法改正にむけては厚労省が規制強化の報告をまとめる一方、経済界からは逆にもっと規制緩和を要求する提言が相次ぎました。研修生を支援する側からの提言はきわめて少なく、研修制度に関する出版物もあまり出されていませんでした。この本を書いたのは、研修生問題について一人でも多くの方に関心を持ってもらうため、「やむにやまれず」からでした。

「労働は商品ではない」
 本書が校了した後の2008年10月、岐阜県から相談にきた研修生の調査をしていくなかで「社団法人国際労働運動研究協会」の不正が明らかになりました。この法人は厚生労働省参事官室が直轄する公益法人でありながら、収入の100%を外国人受入事業(営利事業)か
ら得ており、派遣会社などに法人の「支部」を名乗らせ、莫大な利益を得ていたのです。名古屋入管から08年3月に不正処分を受けていたにもかかわらず、厚労省は私たちが指摘する11月まで気がついていませんでした。厚労省は法人に対し12月25日に「改善命令」を出しましたが、外国人研修生受け入れ機関に対する監督に大きな問題があることを示す事件でした。また今年1月には1000人以上も研修生を派遣している別の公益法人での不正も明らかになっています。
 この本を書いて以後、研修生支援の活動が多くのマスコミで紹介されました。中日新聞、朝日新聞などの国内メディアの他、イギリス、フランス、韓国など海外からも取材に訪れました。彼らの関心は「なぜトヨタの足元でこのようなドレイ労働が行われるのか」というところにあります。
 また労働組合、研究者からの調査や講演の依頼がきています。1月には東海地方の厚労省の労働組合(全労働東海地協)にも講演に呼ばれました。また今年1月22日には愛知県弁護士会で「外国人研修・技能実習制度の抜本的改正を求める意見書」が決議されました。私たちからも要請したものです。
 年末・年明けから日本人の「派遣切り」が激増し、「外国人研修生切り」も急増しています。不正があった場合の「帰国指導」指針がやっと変わったのですが、移動先が見つからず帰国せざるを得ません。これに乗じて不当に帰国させてしまうブローカーもあります。
 外国人労働者を単なる「労働力」と見ていることに問題があります。私は支援活動を続けてきて、言葉は十分ではありませんが、多くの研修生と心を通じ合うことができました。同じ人間として文化を共有できれば研修制度には大きな価値があります。あらためて
「労働は商品ではない」というILOの宣言の意味を実感します。



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