2009.03.31.up　

柘植書房新社▼５月刊行

時代を読む
「新聞を読んで」1997〜2008年
水島朝穂 著
四六判上製・304頁
定価2800円＋税
　

早稲田大学法学学術院教授　水島朝穂

　1997年４月26日（土曜）。私は、マイクの前に一人で座っていた。
　ＮＨＫ「ラジオ深夜便」の「新聞を読んで」コーナーの収録のためである。小さなラジオ・スタジオ。時間をカウントする装置もかなりの年代物である。収録は放送日の夕方。放送は、当日深夜の「ラジオ深夜便」の枠で、再放送は日曜の早朝だった（放送時間は2000年から日曜早朝の枠だけになり、05年４月からは土曜早朝に変更され現在に至る）。あれから11年が経過し、すでに41回分を放送した（08年10月現在）。
　一人で語る12分30秒の世界。何をしゃべってもよい。ただし、素材は担当週の新聞に書かれていること。これが条件である。私は、テーマを収録日まで決めないことにしているから、当日早朝より、一週間分の新聞切り抜きの山と格闘することになる。
　全国紙３紙と東京新聞を講読しており、ブロック紙や地方紙はインターネットで毎日読んでいる。米・独・中・韓４ヵ国の新聞各紙もこまめにチェックしている。全国紙の場合、各本社（東京、大阪、西部）ごとに記事の扱い（見出しや分量なども）が異なるときは、必要に応じ、各本社版の記事を、知り合いの記者に、メールやファックスで送ってもらった。また、私は地方紙の報道を重視するので、インターネットがまだ十分に発達していない頃は、地方の新聞社に電話をかけて、記事をファックスしてもらったこともある。
　「新聞を読んで」は、ある一週間の多数の新聞報道のなかから、私が直観で選んだ出来事を、ラジオを通して語ったものである。そのため、事件が起きたとき、あるいはそれが問題にされたときの「空気」もそのまま伝えている。例えば、2004年９月の放送では、沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事件を扱ったが、それは、ちょうど沖縄から帰京した直後の放送だったため、「沖縄からの新聞を読んで」と題して、やや興奮気味に語ったことを覚えている。だが、日常において、新しい事件が起これば、古い事件は簡単に忘れられていく。この番組を担当してから10年余り、日本も世界も大きく変わった。この間、橋本内閣、小渕内閣、森内閣、小泉内閣、安倍内閣、福田内閣、麻生内閣と、７つの内閣ができた。本書は、「新聞を読んで」の放送内容をそのまま収録することにより、この10年の変化を、ほぼ３ヵ月おきに、一週間単位で「切り抜く」形で再現しようとしたものである。そのような「定時観測」をすることにより、多くの出来事をめぐる「その瞬間」の議論や空気、いわば「時代の呼吸」を再確認することができると考えたからである。（中略）
　新聞を「切り抜く」という作業は、持続的に、かつ、その人の問題意識に沿って系統的に行うことが大切だろう。各紙の紙面の比較や、切り抜きの束から、問題の所在が透けてみえてくることもある。ネット検索は実に便利で、私も活用しているが、これに寄りかかることなく、こうした手作業も行うことで、問題をじっくり考える機会にもなっている。さらに、新聞を「切り抜く」際の視点も重要だろう。私の放送内容を貫くのは、憲法の視点である。立憲主義の基本的な考え方に照らして、日々生起する問題や事件を診ていく。人間の体に健康診断が必要なように、国や社会についても、定期的な「憲法診断」が必要だろう。本書は、この国の政治や社会に対する定期的な「憲法診断」の試みである。（「はじめに」より）

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