日本経済評論社
6月の新刊
本庄事件
ペン偽らず
朝日新聞浦和支局同人/著 栗田尚弥/解説
四六判・446頁・定価2,800円+税 ISBN978-4-8188-2055-5
【目次】
復刊にあたって
はしがき
第1部 真実を索めて
桐の町/「駆け出し」記/グニャグニャ問答
発火点/盆提灯/目をむく人/三百代言攻勢
泣寝入りの手記/山男記者/親分の写真
返り咲き/ヒゲの軍師/ヤミ師/その前夜
町作り/反動氷山/切り返し/目を醒ました獅子
第2部 支局日記
「印鑑泥棒」/腐ったリンゴ/検事の怪文書
本庄事件東京に移る/曲筆範例/証言はあばく
国会審判
本庄事件の顛末【年表】
解説―本庄事件、その背景と意味
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本庄の一波は万波と化した!!
1948(昭和23)年8月、銘仙で有名な埼玉県本庄町(現、市)において新聞記者に対する殴打事件が発生した。当時の本庄町ではヤミが横行し、ヤミで蓄えた資金と暴力団をバックにした一人の町議会議員「ボス」が町に君臨し、町当局も警察や検察もさらには一部マスコミも彼の前には無力であった。そんな町に駐在員として赴任してきた朝日新聞社の若き記者・岸薫夫は、「ボス」の息のかかったヤミ業者と警察・検察の癒着を報道した。岸は殴られもした。『朝日新聞』紙上には毎日のように、「暴力の街」の実体が報ぜられ、それらの記事に鼓舞された青年たちがまず町政刷新の狼煙をあげた。青年たちの勇気は、暴力を恐れ口を噤んでいた町の人々をも動かし、ついには一万人規模の町民大会が開催された。また、埼玉軍政部などGHQ、占領軍当局も事態打開に向けて積極的に動いた。その結果、「ボス」一派は訴追され、「ボス」と癒着した町の有力者や警察幹部、さらには検察幹部も退陣を余儀なくされ、町は平和になった……。
この、世に言う「本庄事件」を扱ったのが、1949年刊行の『ペン偽らず本庄事件』である(版元である花人社という出版社は、この本たった1冊だけの刊行である)。
日本経済評論社は、このたび、このドキュメンタリーを復刊し60年ぶりに世に送り出すことにした。
当時は『暴力の街』(山本薩夫監督)として映画化されるなど、全国的に知られるところとなったが、今ではすっかり忘れ去られようとしている感がある。
昭和が終わり平成の世になって20年。もはや平成生まれも大学生となった。そんな時代に生きる我々にとって、「戦後」は歴史になりつつある。しかし、「戦後」は未だに続いているのである。良くも悪くも……。「戦後民主主義」という言葉が定着しているとすれば、本庄事件は、まさにその第一歩であった。
朝日新聞で「暴力の町 ここに一例」と報じられてから10日後には、町政刷新を訴える町民集会に1万人もの人々が集まるという、この大きなうねりを巻き起こしたエネルギーはどこにあったのか。
現在との違いは何か。岸記者たちに何か特別の力があったのだろうか。
自らの意見を自由に言う。この当たり前のことを多くの若者が勇気を持って実践したのであった。そして、彼ら、彼女たちは対話を厭わなかった。本庄の青年たちは実に多くを語りあった。記者たちは当然のように町を奔走し、民衆の声を聞いた。摩擦を恐れず、とことんまで人間同士が話しこむ大切さ。そう、話せば分かる、話せば変わる、のである。
人間の持つ力、言葉の持つ力、文字の持つ力を信じよう、と本書は教えてくれる。
「戦後」も還暦を過ぎた。我々は改めて、この国が、そして先輩たちが歩んできた道を謙虚に振り返りたい。本書がそのきっかけとなれば幸いである。平成生まれの大学生にもぜひ手にとってほしいと念じている。
本書を復刊するにあたっては、國學院大學の栗田尚弥氏による「解説本庄事件、その背景と意味」を巻末に付したほか、年表や地図なども新たに加えている。
(日本経済評論社編集部)
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