┃NR-memo┃新幹社新刊┃「猪飼野─追憶の1960年代」に寄せて 『猪飼野―追憶の1960年代』 チョジヒョン写真集
新幹社 定価2,800円+税 4月下旬刊行
/金石範/(小説家)
私はこの写真集に、「1960年代」を超えた在日の歴史を見る。それは闇から光のなかへ出てきたように、歴史をわれわれのまえに形をもって浮き上がらせてくれることでもある。そのようなチョジヒョンのレンズの視線。そして、そこには存在する人間の真実が陰翳をたたえて描かれている。
/金時鐘/(詩人)
優れた写真ほど(絵画にも同じことがいえるが)、映像のなかに丸ごとの言葉が詰まっている。一切の説明が省かれ、物の象(かたち)の中で息づく詩の言葉とそれは同じだ。浮かび上がらせた事象が、もう言葉なのだ。だからこそ人はかかえられた言葉に触発され、ひそめた記憶が呼びさまされてもくるものである。
/丁 章/(詩人)
イカイノさえもが/消滅しかねないこのとき/
郷愁ではなく/記録でもなく/ましてコリア
タウンでもない/はらからたちのその地が/
神話として/今よみがえろうとしている。/辛淑玉/(人材育成コンサルタント)
晩年のハンメ(おばあちゃん)は、いつもゴムのスカートをはいて、その上からざっくりとした開襟のシャツを着ていた。髪は、首がちゃんと見えるように結っていた。背筋を伸ばした歩き方。でんとした座り方。ごついしわだらけの手。はにかむように笑う顔。その一つ一つが、この写真集の中にある。
/呉光現/(聖公会生野センター)
この写真集と同時代、同空間を生きてきた僕は、この写真集の一世たちが別の世界の人のように見える。私の記憶に残っていなかった1960年代の写真を改めて見る中で、間違いなく私は猪飼野の二世である、と四十代半ばにして懐かしさと記憶を僕に与えてくれるのである。
/西村秀樹/(毎日放送)
猪飼野、とても小さなエリアだが、そこには人の喜び、怒り、哀しみ、楽しみが一杯詰まっている。猪飼野の小さな路地の向こうには、朝鮮の民衆の息づかいが聞こえる。目を凝らすと東アジアの悲惨と栄光に包まれた近代史が見える。
/趙 博/(予備校教師・ミュージシャン)
猪飼野の曼陀羅には、戦前(植民地時代)と戦後(解放と分断)、そして現代(定着的「在日」)が連続して密接に幾世代もの〈他郷暮らし〉が描かれている。猥雑で過酷で混沌としたあからさまな〈生の現場〉と、それ故にこそ、差別なんかに負けはしない人間の根元的活力と底抜けの明るさが、漂っているのだ。
> IKAINO-selection
・新装版 猪飼野路地裏通りゃんせ
金香都子 風媒社 定価1,800円+税
・越境する民 ──近代大阪の朝鮮人史研究
杉原 達 新幹社 定価2,000円+税
・イカイノ発コリアン歌留多
金蒼生 新幹社 定価1,600円+税
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