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少し前の話になるが、ジュンク堂書店池袋店副店長、福嶋聡氏が著書で「書店人は疲れてはいけない」とおっしゃっていた(もっと違った表現だったかもしれないが、主旨として)。このことばに出会ったとき、もう、何回も頷くほど心に染みた。要するにその時私は「疲れていた」のだ(偉そうですみません)。そして、これ以前こんなにストレートに「疲れている」ことについておっしゃっる方にお会いしたことがなかった。
書店業界の方たちは皆さん本当に前向きで日々努力し、自分を鍛錬して立派な仕事をする人たちばかりという印象で、たいした仕事もしていないくせに「疲れた」なんていうのはトンでもない、と思っていた。
でも、そんな私でも何だか毎日に疲れていて(本は売れないし)、この先前向きにもなれずにいったいどうやって書店員として働いていけばいいのか、途方に暮れていた。そこで出会ったことば「書店人は疲れてはいけない」。つまり、もしかして、皆さん結構「疲れている」ってこと?「疲れている」けど働いている、ってことなんだ、と気づき、ちょっと救われたような、そんな気がしたのである。
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「書店人は疲れてはいけない」ということばの後、福嶋氏は「疲れていると店頭でお客様に話し掛けられるのを嫌がるようになる、…etc」、と思い当たることばかり例に挙げられていた。
そう、疲れていると接客の面白さを忘れ、ひたすら目の前の紙仕事の処理や返品との孤独な格闘を選び、誰かに話し掛けられ仕事を中断するのが嫌でたまらなくなるのだ。そして、そう思う自分のネガティブさに腹が立ちひたすら眉間に皺をよせ、ため息をつく…ひとのことばが聞こえなくなる…(私だけ?)。
でも、ひと(お客様や版元さん、同僚たち)と話し情報交換をすることは、本来私たち書店員にとってイチバン楽しいひと時のはずである。新しい本に触れ、自分の知らないことを教えていただき、普段避けて通りそうな意見にも突き当たりながら働く。
結構贅沢な時間のはずなのに「疲れ」に支配されると不思議に逆の気持ちになる。「疲れる」とは、いったい何なのだろう。思い通りに行かないということだろうか。では、思い通りにするっていったいどういうことか。
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色々考えた末「くたびれたな。棚を見たくないな」と思う時、できるだけワガママになることにした。「こうしなきゃ」をできるだけ忘れ、(なかなか難しいが)したい順にこなしていく。ひとと話す。お客さんや同じ書店員さん、版元さんたちとおしゃべりをする。そんなことをするうち、また、日常の積み重ねの楽しさを思い出し、ゆっくりと本の情報の洪水の中へ戻っていけるような気がする。
何を言いたか、というと、つまり疲れすぎる前に休んじゃおう、ということ。毎年毎年すてきな書店員の方がたくさん辞めていかれる。勿論、未来は彼等彼女等のもの、やるのも辞めるのも自由だ。でも、惜しい、と本当に思う。いっしょに働いていきましょう、と迷惑を顧みず思っている。本を売り読者と出会う楽しさは彼ら彼女らが支えていたのだから、「疲れ」に支配されてほしくないのだ。勝手な言い分だが。