>>>死刑制度問題を探る。

インパクト出版会コラム

◆死刑執行停止法案、上程へ

 

 死刑制度の問題が大きく動き出した。今国会で死刑執行停止法案が上程されるのだ。その骨子は、死刑臨調を設置し3年間死刑制度存廃について論議を深める、その期間プラス1年の4年間は死刑の執行を停止する、仮釈放のない重無期刑を導入する、というものだ。亀井静香会長のもと、超党派で作られている死刑廃止を推進する議員連盟が超党派で議員立法として提出し、次国会で成立させようというもの。そして3年の臨調を経て死刑を廃止するという方向へ向かおうというのである。

 この国では、昨年、一昨年と各2名が、森山眞弓法相の命令で死刑執行されている。一昨年名古屋で執行されたHさんの葬儀に参列したとき、Hさんに弟を保険金殺人で殺害された被害者遺族の原田正治さんも参列していた。原田さんは何度も法相に執行しないでくれと上申していたが、被害者感情に配慮して執行したというのだ。そうした死刑に何の理があるというのか。

 実は50年前、1956年3月に、羽仁五郎らにより死刑廃止法案が上程されている。当時法務委員会で2日間にわたって公聴会が開かれ、死刑の存廃が論議された。大阪拘置所長が死刑執行をした立場から死刑廃絶を訴えたり、北海道の小学校校長が「犯罪者は全て断種してしまえ」と暴言を吐き委員会を凍りつかせたり、妻娘を強盗に殺された弁護士が、「それでも死刑廃止を」と訴えたりなど、18人の公述人によるドラマが展開されている。それも今の死刑存廃論議のほぼ全てが網羅される形で進行していくのである。年報死刑廃止2003年版『死刑廃止法案』はこの論戦の全記録を掲載し、凶悪事件が頻発した前後直後の時代になぜ死刑廃止法案が上程され、そしてなぜ廃案に至ったかを描く。同時に今国会に上程される死刑停止法案における終身刑の導入問題を含めて、様々な問題点を考える最良のテキストである。

 死刑臨調が設置されたからといって死刑廃止が決まったわけではない。死刑臨調の期間、国会での委員会での論議のほか、地方公聴会や死刑廃止運動団体や弁護士会による大規模な集会も準備されている。これまでになく死刑について大きな議論を巻き起こし、死刑制度の実態を一人一人に知ってもらわねばと思う。そのためには、全国の書店に死刑本コーナーが設置されることを心から希望する。

(年報・死刑廃止編集委員会 深田卓)

∧世界のなかの日本の死刑 年報・死刑廃止2002

年報・死刑廃止編集委員会/編 インパクト出版会 ¥2000+税

新刊!(6月20日発売)

∧ 修復的司法とは何か

ハワード・ゼア/著 西村春夫、細井洋子、高橋則夫/監訳 

新泉社 ¥2800+税

従来の応報的司法のもとでは、犯罪加害者に刑罰が科せられる一方で、被害者は置き去りにされてきた。「修復的司法」は参加当事者の自発性を大切にしながら、各人の切実な声を聞くことから始め、被害者の救済、加害者の真の更正、コミュニティの関係修復をめざしていく。世界的な広がりをみせる新しい“正義(Justice)の実践”を紹介し、その理念を追求する。

死刑制度問題を考える図書目録。関連図書一覧 

- 死刑廃止法案    (年報死刑廃止2003)
- 世界のなかの日本の死刑    (年報死刑廃止2002)
- 終身刑を考える     (年報死刑廃止2000-2001)
- 死刑と情報公開     (年報死刑廃止1999)
- 犯罪被害者と死刑制度     (年報死刑廃止1998)
- 死刑─存置と廃止の出会い  (年報死刑廃止1997)
- 「オウムに死刑を」にどう応えるか  (年報死刑廃止1996)
- 死刑囚からあなたへ    (日本死刑囚会議・麦の会)
- 死刑囚からあなたへ2    (日本死刑囚会議・麦の会)
- 死刑の[昭和]史    (池田浩士著)
- こうすればできる死刑廃止   (伊藤・木下編)
- 本当の自分を生きたい    (木村修治)
- 足音が近づく    (市川悦子)
- 殺すこと殺されること    (鶴見俊輔他)
- 死刑の文化を問いなおす   (なだいなだ他)
- 平沢死刑囚の脳は語る    (平沢武彦)
- あの狼煙はいま     (梁石日他)
   ▲以上、インパクト出版会刊
- 死刑の大国・アメリカ    (宮本倫好 亜紀書房)
- 雪冤 島田事件     (白砂巌 社会評論社)
- 日本の死刑     (村野薫 柘植書房新社)
- 面白読本 死刑って何だ   (村野薫 柘植書房新社)
- 修復的司法とは何か  6月刊行   (ハワード・ゼア 新泉社)
- 処刑の科学      (バート・ロンメル 第三書館)

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