NR出版会40周年記念連載 書店の店頭から5
人文担当者はこだわるのです。
吉村教子さん(金高堂書店本店/高知県高知市)
小学校の五年生の時から店番をして(させられて)いましたので、「本屋は土・日もないし、サラリーマンの嫁になりたい」と思って育ちました。ところが結局、本屋に嫁いで、今までの六〇ウン年を本屋ひとすじで生きてまいりました。
毎日荷物は入るし、他の業種よりお客様の来店は多いです。忙しいのひとことです。
この仕事は自分にとって、あきないですね。まさに「商い」です。
仕事をしています本店は売り場が三階層になっており、人文書は二階、棚は三尺棚五〇段、面平台二五点というスペースです。本店はコミックを置いておりませんので、全体に落ち着いた雰囲気です。
いまやネット書店の販売力がすごいのはご存知のとおり。『1Q84』の時などは予約で一万部を超えたといいますから、本屋には驚異・脅威です。
でも、人文書のお客様は、手にとってからちょっと読み込んで、選んで買う方が多いように思います。何かをお探しのようですが、声かけは不用。そして、新しく入ったものに敏感です。少々入れ間違えた位置からも、見つけて購入して下さいます。
ですが、読者がだんだん高齢になり、少しずつお顔を見る機会が減り、かといって新顔が増えるかというとそうでもない、さびしい状況です。
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東京大学出版会、みすず書房、岩波書店、誠信書房などの事前指定注文の版元さん以外は、配本は一冊だけというものがほとんどですから、この一冊を棚ざしすると、結果を出すのはなかなか難しいですね。
「これは」と思うものは、必ず一週間は面陳。版元、著者にはこだわりません。私は表紙が気になるほうです。
最近の例では、『案じますな、今じゃ─ひとり暮らしの高齢者26人の語り』(上杉正幸著、山愛書院)。ひとりでも元気に暮らす高齢者をインタビューした内容の本です。どの担当者からもはずされて、二階にまわってきました。
値段は一八〇〇円+税で魅力的です。「この版元さん、初めて」と思いながらも、社会時評のコーナーに面陳。すると、地味なのに売れました。補充、補充、又補充で生きてます。一冊を大切に。でもこの本は、私の年齢が見つけたもので、若いスタッフなら見過ごしますね。
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NR出版会、流対協とか、版元さん同士のコラボも増えて、毎月きちっとご案内いただくとありがたいです。店に合った仕入れをしていきます。
いろんな案内のFAXが届きます。毎日の量は半端じゃないです。でも出版社によってはFAXナンバーが小さすぎ、これじゃ番線押したくない!
ISBNコード番号なしで新刊・既刊の案内。これも困りもの。
担当者の心理はほんの些細なことで、あとまわしにするものなんです。
また、スリップレスの話も業界内にあるようですが、確かにスリップ管理は書店にとっても作業時間もかかります。版元さんのスリップ報奨も減少していますが、人文書は特に一冊一冊を大切にしていきたいので、語りかけてくれるスリップは大事です。
取次が配本しないだろうな(刷り部数の問題もあります)という本を仕入れて売れると、「まだ読者はいるよ」とご機嫌になります。
人文担当者はこだわるのです。
連載を始めて早5回目。同じ女性として、女性書店員さんの声をお聞きしたいという事務局・天摩の希望を、吉村さんは快く聞き入れ、ご寄稿くださいました。本を1冊1冊、愛情込めて棚や平台に並べる吉村さんの姿が目に浮かぶ、あたたかい文章をありがとうございました。(事務局・天摩くらら)
(「NR出版会新刊重版情報」2010年2月号掲載)