何か書いてほしいと頼まれ、「はいはい」なんて調子よく答えてはみたけれど、何をどう書けばよいのやら。調子のよい自分を呪ってはみたけれど、目の前の原稿用紙は憎たらしいほどに落ちついて鎮座している。とりあえず書店員のいま思っていること、書店員の本音について書くので今回は許してもらいたい。
昔の話になるが、私が書店に就職することが決まったとき、なぜか真剣に将来のことを考え(いまの私には考えられない謙虚さで)、1冊の本を読んだのを覚えている。『書店員のしごと』という、結構業界のなかでは有名な本らしい。当時ははっきりいってタイトルだけで買ってしまい、いまでは実家の書庫の奥深くに“ムー大陸”なみに発見されることなく眠っている(合掌)。
別に内容がどうこうではなくて、ただ私は最近「書店員のしごと」って何だろうと考えたりすることが増えた。ある人は「書店員は会社員なのだから、会社の言うところの仕事をこなせばよい」と言うし、違う人は「書店員は専門職であって、自分のスキルを日々上げるよう勉強を欠かさず良い棚を目指す」なんて言っている。世に言うカリスマ書店員と呼ばれる人々は後者の書店員だし、一般的に言って後者のほうが支持されているように思う。
でも本当にそういう書店員が良い書店員なのか疑問が残る。たしかにそういう人の棚は面白いし勉強にもなる。版元さんにも一目置かれている。でもこういうのは内輪受けだけのような気がする。実際本屋に本を買いに行ってそこまでお店を見る人って業界の人以外考えられない(什器の使い方や棚の構成を楽しみに書店に来るお客さまがいるかもしれないが…)。欲しい本があるかどうかが大切なのであって良い棚かどうかなんて関係ない。一般的に言って良いとされる棚で、売れる棚というのを見たことがない。
だからといって新刊を次から次へとただ置いて、仕事をこなせば良いのかというとそうでもない気がする。何か偉そうだが「書店員のしごと」って、たぶん良い棚とか金太郎飴書店の棚とか、あまり関係ないような気がする。多くの人が書店は一般小売りとは違うと考えるから、専門職みたいな発想が生まれるかもしれないけれど、私から言わせてもらうと書店も一般小売りも同じ小売業だと思う(書店業は10年ぐらい一般小売りからすべての面で遅れている)。そう考えれば「書店員のしごと」も小売業の仕事と同じはず。小売業の仕事で大切なのは、いかに商品を安く仕入れ、利益を稼ぐかということ。いまの書店でも同じことが出来る。現に八木書店などを利用して、俗に言う「ゾッキ本」を販売する書店もあるし、それ以外にも時限再販商品というのもある。書店員は、もちろん出版社と良好な関係をつくるべきだが、例えば「あの商品が欲しいので返品なしを条件に正味を20%下げろ」とか、「あの商品は買切りだけど、9掛けでいいから返品をフリーにしろ」みたいに交渉していくべきだと思う。
別に悪いとは思わないが、何か馴れ合いの関係ばかりよりビジネスとして時には厳しい面があったほうが良い。だから、これからの「書店員のしごと」は賢い仕入れが出来るようにならなくてはいけない。つまり、バイヤーとしての商品知識を勉強して、どの出版社とも対等に渡り合えるようになることだと思う。私も出版社の足元を見ることが出来る、出版社から嫌われるような書店員を目指したい。
追伸 いままで通り飲みには誘って下さい。