2020.10.02 up 






NR出版会連載企画 
本を届ける仕事18
 生徒に「本との出会いの場」を作るために
杉山 孝さん(マルサン書店外商部/静岡県沼津市


 創業一九〇二年のマルサン書店外商部で働き始めて二〇年になります。その間に街から本屋さんは減り、マルサン書店の店舗数も半分以下になってしまいました。

 入社当時はまだ活気を感じることができましたが、状況は変わっていくだろうという認識から、危機感を持って働いてきました。繁盛していた頃と同じままのルーティンワークをこなしていく日々の中で、「今、何がマルサン書店(外商部)にできるのか? 書店としての付加価値を生み出す必要がある」と考えていました。高校生(および中学生)向け図書巡回を始めたのは必然でした。

 きっかけは、近くの私立高校図書館の司書さんの「高校生が実際に本の中身を見て選定できたら……」という一言でした。

 七年ほど前、当時は社内でも非難され、葛藤の中、自分独りでのスタートでした。

 各出版社さんと交渉し、協力が得られたら巡回用の見本を提供してもらいます。協力出版社(約六〇の出版社および出版社のグループ)ごとに巡回箱に入れ、およそ二千冊(例年だと七〇箱)を持って学校を回ります。出版社ごとに巡回箱に入れて陳列します。実際に展示スペースに並べると、七〇箱でも少量に見えてしまうので、規模感はとても大事です。大人ではなく生徒中心の本の選定会を「ブックフェア」と呼ぶようにしていて、図書室に入れてほしい本は、リクエスト用紙に記入してもらいます。

 静岡県東部の田舎の本屋では見ることができない本が多く並ぶため、当然、会場は盛り上がります。私自身も毎年楽しみにしています。見本の選定は、各出版社の担当者さんのセンスにおまかせしています。

 ブックフェアは、搬入から搬出までを一日で行います。開催の間は学校に常駐し、生徒や先生方が選んだ本をリストにまとめていきます。撤収時には、紙のリストとデータを置いて帰ります。そして後日、注文をいただく流れです。

 ちょうど同時期に、学校図書館システムの販売も始めていたので、注文いただいた本は図書整備(希望があれば有料でブッカー=フィルムコーティング)をし、作成した図書データとともに納品をします。ブックフェアをきっかけに、今では七二校に学校図書館システムを導入することもできました。本の選書〜発注〜図書整備〜納品までが以前よりスマートにできるようになり、業務の効率化にもつながっています。

 ブックフェアを開催することで、普段図書室を訪れない生徒や先生が本を手にとってくれるかも? 本を通じたコミュニケーションが増えるかも? 図書委員会の年間行事のひとつになり、図書室の活性化につながるかも? と期待を込めてやっています。普段出会うことのない本や、普段読まないジャンルの本を手にとることで、何かが変わるきっかけになるかも? そういう「本との出会いの場」になれば、という思いで続けています。

 学校ごとに考え方は違うので、歓迎され毎年開催できる学校もあれば、一回きりで終わってしまうこともありますが、出版社、取次の方々、そして書店が協力して学校の図書室運営のお手伝いができたら、そして、学校から頼られる本屋さんになれたらよいのだとも考えます。

 ブックフェアを開催しなくても本の注文はもらえます。それに、ブックフェアだけで大きな売上を作ることはできません。わざわざ重たい思いをしなくてもよいのです。それでも、「種をまいている」つもりで、自分を信じて進んできました。現在は、外商部の体制も変わり、社員全員に重たい思いをさせています。

 普段の図書室でも、書店店頭でも見られない光景。本を囲んで語り合っている生徒たちの姿。本を気だるそうに選ぶ子もいれば、真剣に探して本に見入る子もいます。本を手に取り笑顔の生徒たち、先生方の反応を眺めていると、本屋になってよかったかなと思えます。

 本離れは続いていくと思いますが、みなさんにご協力をいただきながら「本との出会いの場」の提供を続けたいと考えています。


ブックフェアにはNR出版会もお声がけいただき、昨年から参加させてもらっています。杉山さんの熱意に打たれ、会としてもそれに応えたい、と中高生に問題提起する本を選書しました。生徒や先生からは喜びの手紙を受け取ることもあるそうです。コロナ禍難にあってもできるかぎり開催したい、と杉山さんは今年も精力的に学校を回っていらっしゃいます。(事務局・天摩)

(「NR出版会新刊重版情報」2020年10・11月号掲載)

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