NR出版会連載企画 本を届ける仕事34
本屋であるために
保坂修一さん(うさぎや自治医大店/栃木県下野市)
幼い頃から本が好きで、本ばかり読んできたと言えたならそれは素敵なことですが、そこまで熱心に読んでいたかといえば、適当だったと振り返ります。
地元の本屋も少なく、立ち読みすると怒られていたのであまり近寄らなかったと思い出します。
映画や音楽、文学に触れるようになると、思春期特有の自意識で人と違うことをしている自分に酔い、一つもわからないくせに理解したような顔つきでした。
学生時代、アルバイトで書店の経験をということもありませんでした。ただ日々が過ぎ、好きかもしれない本や音楽などで心の平穏を保っていたにすぎません。いわゆる就職氷河期真っただ中で、東京で挫折し地元に戻っても状況は変わりませんでした。いろいろな職種をふらふらとし、どうにか今の会社に拾ってもらったというのが本当のところです。
それまでの私の中での書店というと、「自分の知らないナニカがあるかもしれない場所」という認識でした。実際、ナニカがあって手にした書籍は今でも大切な一冊です。しかし、よくわかっていません。感動ではなく、ときめきとも異なる心が動いた瞬間。そんな煌めきが宿るような書籍たち。
入社当時はそんなことを考える余裕はなく、ただひたすら品出しと返本との格闘でした。しかし、東京の書店をいろいろと見たことをきっかけに、自分でもそんな売り場を目指すようになりました。
ある書店では、文庫の棚前の平台に衝撃を受けました。複数の本が関連本に枝分かれし、さらに派生しながら展開されている様に圧倒されました。自由でいいんだと思うと同時に、自分の売り場もこうありたいと思いました。
ご来店されるお客様ひとり一人に物語があります。その物語にそっと寄り添うような、煌めく一冊が光となるような、そんな出合いがある本屋でありたいと思います。
知らないことを知ることはとても楽しく、発見に満ちています。その中でも人文書は自分にとって難しくも煌めいています。しかし、最近はインターネットなどで簡単に情報は掴めます。あなたにおすすめの本の紹介もしてくれます。それでも私は、人が考えて置いた書籍が必要なんじゃないかと思うのです。こんな時代だからこそ、人文知が必要だと思うのです。
いろいろ悩みながらも、今まで7スパンだった人文書を15スパンに拡大しました。売れる本ばかりではないのですが、確実に煌めく一冊があると信じております。お客様の動きを見て少しずつ棚を変えていこうと思います。
書店がどんどん減ってきていて、大型チェーン店はどんどん効率化を推し進めていきます。私がしていること、しようとしていることは、すぐに売上に繋がるものではないでしょう。もしかしたら自己満足に過ぎず、もっと別のやり方が正しいのかもしれません。それでも本の持つ魅力、出合うことの愉しさを信じてやまないのです。
保坂さんが衝撃を受けた「ある書店」とは、2017年に閉店したあゆみBOOKS小石川店だったそうです。現フラヌール書店店主の久禮亮太さんが、2014年まで店長を務めていらっしゃいました。
うさぎや自治医大店を訪問したとき、「ちょうど人文の棚を広げたところだったんですよ」と迎えてくださった保坂さん。今こそ人文書を売らなければ、という気概に胸が熱くなりました。(事務局・天摩)
(「NR出版会新刊重版情報」2024年1・2月号掲載)