NR出版会連載企画 
本を届ける仕事36
あっという間の五〇年
大田伸一さん(うつのみや金沢香林坊店/石川県金沢市


 あっという間だった。入社して五〇年、今の書店で半世紀も働いてきたのかと感慨深い。

 書店がまだ華やかだった頃に入社し、店売業務についた。担当は高校学習参考書。当時は小・中・高それぞれに一名担当者がいた。新学期の最中、別棟の倉庫に山と積まれた在庫量に圧倒されたが、売れていく量も半端ではなかった。特設会場で市内高校別に教科書ガイドや辞典を販売していた。

 文芸書を担当していた時に赤川次郎さんのサイン会があり、四〇〇人近くの方が並ばれた。当時、五階建てだった店の一階から四階の階段には長い行列ができた。

 『窓ぎわのトットちゃん』(初版一九八一年、講談社)がベストセラーになった時にたまたま行った東京の書店では、コンテナに在庫がびっしり積まれていた。当店では初回の入荷数が限られていて、すぐに品切れとなってしまったから、あるところにはあるのだと思ったのを覚えている。

 その後、郊外型の書店が増え、書店の数はピークに達したが、現在は街中の書店がどんどんなくなり、書店は生き残りをかけて知恵を絞らなければならず、情報化社会が進むにつれて読書離れも言われ続ける時代になった。

 私が人文書のジャンル担当になったのは、四、五年前。それまで私が読んできた本はと言えば、ミステリーか小説の類ばかり。専門書とは無縁の読書生活だった。

 書名には覚えがあるものの、内容やジャンル分けがわからず、毎日の補充にも時間がかかってしまった。常備も多く、入れ替え時には要領の悪さが出て、抜きもれも多かったりした。日頃は、人文書目録も片手に、棚の本の入れ替え、返品を行ない、一年以上かけて今の売場を作った。

 年に数回は、専用フェア台で人文書版元さんが企画するブックフェアを実施し、実績も上がるようになった。ただ、最近はマンネリ化しているのではと思ったりして、新しい切り口のブックフェアを期待している。

 新刊はほとんど一冊の入荷だが、棚差ししても不思議に売れていく。早い時は、差したその日に売れたりする。当店の目の肥えたお客様に感謝です。

 専門書で困るのは、新刊の案内があまりないこと。配本はもちろん限られている。新聞などの書評・広告には知らない本が多く載っている。街中の書店にわざわざ足を運んで下さるお客様のためにも、できるだけの品揃えをしてあげたい。インターネット書店には敵わないまでも、リアル書店の良さももっとアピールしていきたいと思う。

 紙の本がなくなると言われ続けて久しいが、どっこい本は生きている。お客様との出会いの場を提供し続けることが、書店員の使命だと信じている。



毎回欠かさずNR長期セットのご注文をくださる大田さん。今年1月1日の能登半島地震の3日後、加盟社である新泉社の安喜さんがお見舞いを兼ねてお店を訪れました。大田さんは、一面特集へのご寄稿を一度は固辞されましたが、私たちの強い願いを受け入れてくださり、今回、掲載が叶いました。どれだけ多くの書店員に大田さんの心意気が届くだろう、と楽しみです。(事務局・天摩)

(「NR出版会新刊重版情報」2024年7・8月号掲載)

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