2014.07.26 up 



NR出版会連載企画 NR版元代表インタビュー7
若い世代が出版社をどう引き継いでいくか
同時代社(代表 川上 隆氏)


 同時代社は一九八〇年に創業、二〇一〇年に父である川上徹氏から息子の川上隆氏に引き継がれ、今年三四年目を迎えます。


――川上さんは以前NRの事務局に務めていたんですよね。

 一九九八年から二年ほど、NRの事務局にいました。それまでは普通のサラリーマンをしていましたが、親父がやっていたというのもあって出版に興味があり、何か面白そうなことをやっているなということで当時のNRのお世話になりました。二〇〇〇年頃からは親父の会社を手伝うようになって、一〇年して「さて、この会社をどうするか」という話になったときには、まぁもう逃げられなくなっていました(笑)。中小零細の厳しい現実というのもわかっていましたが私なりにがんばろうかと。

――NRで学んだことが役に立ちましたか?

 当時は書店員さんやNRの仲間とよく飲んだりしていました。楽しかったですね。NRでのさまざまな出会いが、出版を続けていこうという動機にもなった気がします。

――編集の業務は、同時代社に入ってから学んだのですか?

 そうですね。右も左もわからなかったですが、まずは「勝手にやれ」という感じでしたね。初めて作ったのは『誰も知らない円形脱毛症』という本でした。きっかけは私自身が円形脱毛症になったから。本にするつもりもなく、別に命に関わる病気でもなかったので、軽い気持ちで調べていたのですが、ある患者会の存在を知って衝撃を受けました。それで、この病気で苦しんでいる人たちに向けて、何か発信できたらと。


――先代はどんな創業者だったのでしょうか。

 全学連の委員長だったということでご存知の方もいるでしょうし、一九八〇年の創業までの話は『査問』(二〇〇一年・ちくま文庫)や『素描・一九六〇年代』(二〇〇八年・同時代社)という本に詳しいです。

――経営を任されてからちょうど四年。どうでしたか。

 まずは五年と思ってきたので、あと一年なんですね。あっという間でした。先代からの人的なつながりを引き継ぎつつ、今後は独自のカラーを出せるような出版活動をしていければと思います。いまは外部の編集者やデザイナー含め、まだ父も健在なので、いろいろな人の力を借りながらやっています。

――昔からずっと売れているロングセラーといえばどれですか?

 意外かもしれないのですが、益田総子先生の「劇的、漢方薬」のシリーズですね。一九九〇年から七冊のシリーズになっています。あとはP・クロポトキン著、大杉栄訳の『相互扶助論』は、同時代社にとっては大事な本です。

――川上さんは一九七二年生まれ。NRで一番若い社長ですから期待も大きいです。

 軌道に乗ったとはまったく言えないですし、ずっとあがき続けているというか。零細出版社が一社だけでやれることは限られるけれども、助け合って、いろんなことにチャレンジすることができる可能性があるのはNRだと思います。発展とは言わないけど、共存して、食っていけることを考える。大先輩たちの知恵と経験を活かして、私なんかよりもっと若い人たちが活躍できる場をNRが作れれば、展望が開けるんじゃないかな。



閉塞感の強い出版業界ですが、過去の歴史や実績だけではなく、未来のビジョンを聞いていて希望をもらいました。先代社長たちが築き上げてきたものを、次代が引き継いでいく、そういう変化がこれから起こってくるのかなと思います。けっして右肩上がりではない業界で看板を背負う覚悟と、一人で何でもこなす仕事ぶりを、頼もしいなぁと思うのでした。(事務局・小泉)

(「NR出版会新刊重版情報」2014年7月号掲載)

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