●人物紹介
松尾邦之助(マツオ・クニノスケ、1899-1975)は、1930(昭和5年)に読売新聞パリ文芸部員、のちに読売新聞社初の海外特派員として敗戦までの期間をパリで過ごす。当時パリを訪れる日本の文化人と交流したほか、藤田嗣治と親しくなる(本書冒頭には、フジタ画伯による松尾の似顔絵を収録)。日本紹介誌「FRANCE-JAPON」発刊、哲学者ジイドとの会見を記した『ジイド会見記』(1947年刊、のち『自然発生的抵抗の論理』1969年に改版)、石原慎太郎の「太陽の季節」を仏・ジュリアール社から翻訳刊行した(1958年)。敗戦後日本へ帰国してからは、読売新聞宣伝のための地方行脚、論説委員、副主筆を経ながら、言論・文化人たちとの交流、活動に奔走し、また多くの著書を残す。
●本書紹介
本書『無頼記者、戦後日本を撃つ』は、敗戦後の日本へ帰国し、読売新聞の社員として活躍する数年間を記した記録。晩年にかけて執筆されており、生前はこれを『敵前上陸』として刊行する意志があった。没後30年を経て、遺族が『敵前上陸』(仮)として残された多くの原稿を整理し、アナキズム研究家でもあり松尾と親交のあった大澤正道氏が編集、解題を付し、当時の写真資料や登場する著名人たちの解説付き索引を巻末に収録した“新刊”として、社会評論社より2006年4月末に刊行した。
●刊行の意味
昨今、戦後が同時代史ではなく、ひとつの「歴史」として研究が多くなされるようになった。この風潮に呼応し、本書は敗戦後間もない日本の知識人社会をうかがい知る格好の史料として、刊行の価値が十分にあると思われる。それは松尾邦之助の華麗なまでの“毒舌”によって、読者が歴史としての戦後を垣間見るに絶好の味付けになっているからだろう。但し、毒舌家・松尾邦之助氏も、読売新聞社に対してはその本領が発揮されていない節があると、本書刊行後に感想として送られている。