2005.03.23.up



八木澤高明
写真・文

ネパールに生きる
揺れる王国の人びと

新泉社 2004年12月刊
定価2300円+税
ISBN4-7877-0412-5
A5判変型上製 口絵カラー4P+288P

ヒマラヤの美しい大自然に囲まれたのどかな暮らしーー。そんなイメージとは裏腹に、反政府武装組織マオイスト(ネパール共産党毛沢東主義派)との内戦状態が続き、王国は大きく揺らいでいる。ネパールに通い続ける写真家が、軋みのなかに生きる民衆の等身大の姿を内側から丹念に活写。10年間の取材を集大成した、珠玉のフォト・ノンフィクション。

著者ホームページ
http://homepage2.nifty.com/yagisawa/

*推薦 井家上隆幸氏
 「農村の住民、子どもたち、銃を取って戦って死ぬしかない若者たち、悲しいなりわいの女たち――、八木澤高明が切ない思いで撮った写真の顔は、涙もなく笑みもない。ひたとみすえた切れ長な目は、夢や希望や絶望や怨み、いっさいを超えてひたすら〈平等〉の理想郷を幻視しているかのようである。」



■■■ 書評から ■■■

瀬戸正人氏「今週の三冊」
 (「週刊文春」05年1月20日号)
「写真を撮りながら、いつしかドキュメンタリーというリアルな写真表現に目ざめてゆく姿がここにある。写真と文章の間を行き来しつつ、すぐそこの現実を見落とすまいと、街を、そして山間を走りまわっている。/慎重かつ細やかな姿勢で人々に接しているのが印象的だ。……著者はそのひとつ一つの声を拾いあげ、たんねんに写真に写しとめている。正統なドキュメンタリーの手法だけに、ストレートながら決して単純ではない物語が浮かびあがってくる。人々の言葉の間に挟み込まれたポートレート写真が、それぞれの生の証として立ち現れてくるのだ。……〈ネパールに生きる〉覚悟をしながら、優しき目はその周辺から世界を見つめようとしている。」
http://www.bunshun.co.jp/mag/shukanbunshun/shukanbunshun050120.htm

鎌田慧氏「農家の娘と結婚した著者が描く山岳民の生活誌」
 (「週刊ポスト」05年2月18日号)
「学生時代に、世界最高峰の「チョモランマ」に憧れてネパールを訪れた著者が、この国の農村社会に魅力を感じ、なん回か通っているうちに、農家の娘と結婚する。……やがてカメラマンとなった著者が、この国の現状を知らせたい、と書きためた文章と写真によるルポルタージュである。ナイーブな感性が、山岳の民の生活をよく描きだしている。……とりわけ、わたしには興味ぶかかったのは、「アウトカースト」の生活ぶりだった。……著者はモンゴロイドのカーストである「マガルカースト」と思われて「マガル」と呼び捨てられていた。かつて、南アで「名誉白人」にされていた日本人が、「マガル」「マガル」と呼ばれたり、神聖な火をつかう台所にいれてもらえなかったりした、との報告は、日本人の存在の現実を突きつけられているようだ。/売春を職業とさせられている「バディカースト」の集落の訪問記に、著者の差別への怒りがあらわれている。カースト制度がいつなくなるか、それにたちむかうひとたちも紹介されている。」

松原隆一郎氏「大混乱の現状を危機くぐりながら取材」
 (「週刊朝日」05年2月25日号)
「著者は危機をくぐりながらマオイストの拠点を取材し、リーダーのインタビューも試みる。……最前線で闘うのは、両軍[ネパール政府軍、マオイスト]ともに貧しい山間部出身の20歳前後の男女だというのが痛ましい。表紙でダルバートを食し微笑むマオイスト兵の美少女は、後に銃撃戦で死亡したという。多く挟まれる白黒写真は、いずれも同国民の出口のない悲しみを湛えている。」
http://www3.asahi.com/opendoors/zasshi/syukan/backnumber/a20050225.html

谷川昌幸氏「命奪ったグローバル化」
 (「北海道新聞」05年2月6日、「西日本新聞」05年2月20日)
「ユートピアのような伝統的社会がわずか十数年で悲惨な内戦状態に転落した。歴史は非情だ。[カバー]写真の女性は実はマオイスト兵。著者が2001年に現地取材中に撮ったが、翌年訪れると、彼女はすでに戦死していた。グローバル化さえなければ、彼女は村で苦労は多くとも平和に暮らしていたはずだ。……写真の彼女は、時代の矛盾を一身にまとい、歴史の非情を予告するかのように、笑顔のうちに底知れぬ不安の雰囲気を醸し出している。/著者は彼女に象徴されるネパールの苦境の諸相を、丹念な取材を基に児童労働、王室の銃撃事件、マオイスト、グルカ兵、エイズ、ネパール国籍の男性の有罪が確定した東電OL殺人事件などのリポートを通して、リアルに描写している。随所に挿入されている著者撮影の写真も味わい深い。」
http://www5.hokkaido-np.co.jp/books/20050206/2.html

井家上隆幸氏(「遊歩人」33号、04年11月)
http://ebook-salon.com/pda/monthly/ufo/0411/monthly.asp

白石素子氏「若き写真家が温かい目で著した一冊」
 (「air BE-PAL」631号、05年1月25日)
「『ネパールに生きる』は、写真家の八木澤高明さんが22歳の時から10年間ネパールに通い続け、この国の抱えるさまざまな社会問題を浮き彫りにしたフォト・ノンフィクション。ネパールの現実を思い知らされる一冊です。……厳しいネパールの社会問題を取り上げながら、この本は不思議と読後に救いのない悲壮感を残しません。それは筆者の八木澤さんがネパールの「人」に焦点を当て、真摯に向きあい丹念に取材しながら、そこに「生きようとするエネルギー」のようなものを感じ取り、描いているからではないかと思います。写真の人々はじつに良い顔をしているのです。生きる厳しさを忘れがちな私たち日本人には、思わずハッとさせられる表情ばかり。/外務省は「海外安全ホームページ」の中で、ネパールのほとんどを注意すべき地域に指定し、ところによっては旅行を延期するよう呼びかけています。現地におもむきネパールを旅することはできなくても、この一冊で知られざるネパールのさまざまな顔を知ることができると思います。」
http://www.airbepal.com/bn/10509172750200/1106538757.html

久田将義氏「我々のネパールへの距離は」
 (「ダカーポ」555号、05年3月2日号)
「情感あふれるフォトノンフィクションが出版された。……商業主義にのっとった単行本が全盛期の昨今、このような地を這うような取材の集大成が1冊の単行本になるということに私は、日本の出版業界もまだまだ捨てたものじゃないなと思う。……ネパール人たちと写る筆者の汗にまみれた顔。いい表情をしている。こういう本から汗のにおいがするかのようなフォトルポルタージュに触れてみた後、読者として爽快感さえ残ったのだった。」
http://www.magazine.co.jp/regulars/magamix/contents.jsp?shiCd=DC&gosu=555

     


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書評、紹介記事 ■■■


「読売新聞」05年2月16日
「高原の大自然の中でトレッキング。それが観光の国ネパールのイメージだ。しかし、児童労働、不安定な政情、内戦、HIV感染者の増加、海外での出稼ぎ労働など、多くの問題をかかえているのが実情だ。人々の揺れる表情を切り出す写真とルポ。日本で殺人事件の容疑者となったネパール人の周辺取材にも、著者の視線が光る。」

「東京新聞」「中日新聞」05年1月30日
「マオイストとなり政府に対する武装闘争を激化させている若者、増加の一途をたどっているHIV感染者、学校へも行かずに働く子どもたち……。貧困と差別の中で生きる彼らを10年にわたり取材してきたカメラマンのルポである。取材後に戦死したという、あどけない女性兵士の笑顔が胸に残る。王国の現実を知ってほしいとの著者の思いが静かに伝わってくる。」

「神奈川新聞」05年1月26日「照明灯」
「写真家八木澤高明さん(32)の著書『ネパールに生きる・揺れる王国の人びと』は遠い国を近くに引き寄せてくれた。大学生時代から通うこと10年、ネパール人を妻にし、かの国の懐に飛び込み、内奥を凝視してきた。……「すべては貧困でつながる。王宮事件以後は政情不安が心情不安を募らせ、負の連鎖が深まる」。その国への最大の支援国は日本。「無自覚な援助にも責任があるのでは」。とかくニュースがないと伝えない。ニュースの谷間に伝えるべきことが置き去られている。」

「神奈川新聞」05年2月16日「照明灯」
「4年前の王宮事件を機に政情不安を深めるネパールをこの欄で先日紹介したが、その6日後の1日、国王が非常事態を宣言、絶対王制に逆戻りした。批判勢力を拘束し、武力で言論を統制、衛星放送やインターネットによる情報の流れを一時遮断した。「のどかなヒマラヤの桃源郷のような見方はやめてほしい。もはや国民の信頼を失った王制は長くは維持できないでしょう」と、10年間、かの国を見守り続けてきた横浜市戸塚区の写真家八木澤高明さん(32)は予測していた……」

「週刊金曜日」05年2月4日号
「8年以上にわたり繰り広げられている人民戦争。その犠牲者は約1万人にのぼるという。いまだにのこる伝統的なカースト制度、激しい戦闘で貧しい農村はさらに窮乏し、村の子どもたちの生きていくために銃を取る。混乱のただ中にあるこの国に暮らす人々の、生と死を見つめたフォト・ノンフィクション。」
http://www.kinyobi.co.jp/pages/vol543/mokuji

「ジャーナリスト」05年2月25日号
「中東に出稼ぎに行った夫からエイズ感染して亡くなった義姉の話など、著者の身近な現実にもアジアの現在が映し出される。……ネパールがこんなにもアジアの現実の縮図であったのかという思いがした。/働く子どもたち、若い兵士、売春を生業とするカーストの娘…、多くの写真が載せられているが、ヒマラヤの風景写真は1枚もない。」
http://www.jcj.gr.jp/

「部落解放」05年2月号
「ネパールと深くかかわってきた筆者は、同国の〈差別の〉重層構造に迫るとともに、えん罪の疑いの濃い、東電OL殺人事件のゴビンダ被告の近況にまで筆をすすめる。著者は、本誌02年5月号のグラビアでも「ネパールの〈不可触民〉サルキ」を発表している。一貫したテーマのもと、被写体が「見えて」いるからだろうか、人物のまなざしに力を感じた。」

「ふぇみん」05年2月25日号
「この国はどうなっているのだろうという疑問に、本書は十分応えてくれる。……美しいヒマラヤの山々の懐に抱かれた国は幾重もの困難がある。……底辺の人たちの目線にそった取材姿勢に好感をもった。/写真家である著者は、写真にも多くを語らせている。」
http://www.jca.apc.org/femin/kigi/digest05.htm#news050225

「聖教新聞」05年2月9日号
「取材後に戦死した反政府兵士はまだ18歳の女性。軍服姿のあどけない笑顔が本書の表紙を飾っている。農村の貧困が若者たちに銃をとらせている。/添えられた写真も、文章も、抑制がきいていて、声高に何かを糾弾する風でもない。それでいて、ネパールの人々への深い思いが確かに伝わっている。現代ネパールの実像を活写したフォトエッセーである。

「週刊現代」05年1月29日号
「ヒマラヤの平和な王国というイメージを覆す動乱に見まわれているネパール。その反政府組織を中心に、同国の現実を10年にわたって取材したルポ。」

 

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